字がマスからはみ出す子。手先の不器用さだけが理由ではないかもしれません

教室の机に向かって字を書いている子どもを、横から見た様子。足の裏が床についている
※画像はイメージです

「マスの中に書いてね、と何度言っても、はみ出してしまうんです」「ていねいに書こうとしているのに、字がどんどん大きくなってしまう」字がマスに収まらないと、「不器用なのかな」「雑に書いているのかな」と思われがちです。けれども、字をマスに収めるには、手先の器用さのほかにも、いくつもの力が必要です。このコラムでは、はみ出し方の様子からつまずきを考え、見る力・指先の動き・姿勢の3つの面から、周りの大人にできる工夫をご紹介します。

字をマスに収めるには、いくつもの力がいる

マスの中に1文字を書くとき、私たちは次のようなことを、ほとんど意識せずに行っています。

1文字をマスに書くまで

  1. 見るマスの大きさと位置をとらえる
  2. 思い浮かべる書く字の形と、マスの中での大きさを思い浮かべる
  3. 決める書き始めの場所を決める
  4. 書く線の向きや長さを目で確かめながら、鉛筆を動かす
  5. 止めるちょうどよい所で、線を止める

どこか一つでもうまくいかないと、字はマスからはみ出しやすくなります。「ていねいに書きなさい」と声をかけても変わらないのは、本人の気持ちだけでは解決しにくい所でつまずいていることがあるからです。

はみ出し方から、つまずきを考える

字のはみ出し方をよく見ると、どこでつまずいているのか、手がかりが見つかることがあります。

字がマスからはみ出すときの6つのパターン。大きすぎる、すみに寄る、大きさがばらばら、線が突き抜ける、形がくずれる、行がずれる
字のはみ出し方の、よくあるパターン
はみ出し方関係していそうな力
字が大きすぎて、はみ出す指先で鉛筆を細かく動かす力(下の「指先の動き」で説明します)
マスのすみに寄る書き始めの場所を決める力、位置をとらえる力(空間の認知)
字の大きさがばらばらとなりの字やマスと見比べる力、目で確かめながら書く力
線が突き抜ける、止まらない見ながら手を止める力(目と手の協応)、力の加減
形がくずれる字の形をとらえる力(形の見分け)
行がずれていく位置をとらえる力、姿勢、紙を押さえる手

いくつかのパターンが、まざっていることもあります。表は、お子さんの様子を見るときの「手がかりの一つ」として使ってください。

見る力から考える

字をマスに収めるときには、次のような見る力が使われています。

  • 位置をとらえる力(空間の認知):マスのどこから書き始めて、どこまで線を伸ばすかをとらえる
  • 形をとらえる力(形の見分け):「は」と「ほ」のような、似た形の違いをとらえて書き分ける
  • 目と手を一緒に使う力(目と手の協応):鉛筆の先を目で確かめながら、線を引いて、止める

研究でも、見た形を手で写す力(視覚と運動の統合)と、字を書く力のあいだには、関係があると報告されています(Daly ら, 2003)。字を書くことには、見る力、手先の動き、体の感覚、注意など、たくさんの力が関わっていると整理されています(Feder・Majnemer, 2007)。

指先の動きから考える:腕で書くと、字は大きくなる

字が大きくなってしまう子では、指先で鉛筆を動かすことに苦手さがあることがあります。

小さな字を書くとき、鉛筆は主に指の関節で動かしています。指には、次の3つの関節があります。

  • 指先に近い関節(専門の言葉で DIP 関節)
  • 指の真ん中の関節(PIP 関節)
  • 指の付け根の関節(MP 関節)

この3つの関節を細かく曲げ伸ばしすることで、鉛筆の先を少しだけ動かし、小さな線を書いています。

指先の関節を細かく動かすのが難しいと、その分を、手首やひじ、肩の動きで補うようになります。専門の言葉では、これを「代償」と呼びます。ところが、腕の大きな動きでは、鉛筆の先を少しだけ動かす、という細かい調整がしにくくなります。そのため、字が大きくなり、マスからはみ出しやすくなるのです。

指の3つの関節で鉛筆を動かすと小さな字が書け、ひじや肩で動かすと字が大きくなることを示した図
指先で動かすと小さな字、腕で動かすと大きな字になりやすい
主に動かしている所書きやすい字
指の関節(DIP・PIP・MP)小さく、細かい字
手首中くらいの字
ひじ・肩(腕全体)大きな字。細かい調整は苦手

お子さんが字を書いているときに、指がほとんど動かず、手首や腕ごと動いていないかを見てみてください。指先で操作しやすい鉛筆の持ち方になっているかどうかも、手がかりになります。

体の土台から考える:姿勢と、紙を押さえる手

ここは、理学療法士として特にお伝えしたい所です。指先の細かい動きは、体がしっかり安定していてこそ発揮できます。体がぐらぐらしていると、手先はバランスをとるのに使われてしまい、細かい動きがしにくくなります。

字を書くときの姿勢は、次のような点を目安にしてみてください。

見る所目安
足足の裏全体が、床(または足台)にしっかりついている
椅子お尻を奥まで入れて座れる。ひざがおよそ直角に曲がる高さ
机ひじを曲げて腕を机に乗せたとき、肩が上がらず、背中が丸まりすぎない高さ
体と机の距離おなかと机のあいだに、こぶし1つ分くらい
紙を押さえる手書かない方の手で、紙をしっかり押さえている

特に見落とされやすいのが、足の裏と、紙を押さえる手です。足が床に届かずぶらぶらしていると、体が安定しにくくなります。紙を押さえていないと、書くたびに紙が動いて、線が思った所に引けなくなります。

気をつけたいこと

字がマスからはみ出す理由は、一人ひとり違います。見る力や指先の動き、姿勢のほかに、注意の向け方や、字の形をまだ覚えている途中であることなども関係します。

  • まず、視力に問題がないかを確かめてください
  • 体の動かし方の不器用さが、字を書くこと以外にも目立つときは、学校や療育の先生、リハビリの専門職などに相談してみてください
  • 「本人のやる気」や「ていねいさ」の問題だと決めつけないでください

家でできる工夫と練習

書く環境を整える

  • マスを大きくする:書ける大きさのマスから始めて、慣れてきたら少しずつ小さくします
  • マスに十字の補助線を入れる:マスのまんなかが分かると、位置をとらえやすくなります
  • 書き始めの点を打つ:最初の1画をどこから書くかを、小さな点で示します
  • 足台やクッションで姿勢を整える:足の裏がつかないときは、足台を置きます

指先を使う遊び

  • 小さなものをつまむ:ビーズやおはじきを、指先でつまんで入れ物に移します
  • 短い鉛筆やクレヨンで描く:短いものは、指先で持たないと描けないので、自然と指先を使います
  • 洗濯ばさみ遊び:洗濯ばさみを開いたり閉じたりして、指先の力と動きを使います

線を引いて、止める練習

迷路や線たどりのように、「はみ出さずに線を引く」「ちょうどよい所で止める」遊びは、マスに字を書く準備になります。

つながるプリント

字をマスに収めるときに使う力に近い力をねらった、MIRU LAB KIDS のプリントです。

書き写しのつまずきについては、コラム「黒板を写すのが遅いのは「書くのが苦手」だから?」もあわせてご覧ください。1日の量や続け方については、コラム「毎日やったほうがいい? 1日どれくらい?」をご覧ください。

おわりに

字がマスからはみ出すのは、本人が雑に書いているからとは限りません。見る力、指先の動き、体の土台のどこかで、がんばってもうまくいかない所があるのかもしれません。

どこでつまずいているのかが分かると、「ていねいに書いて」のほかにも、できる工夫が見えてきます。このコラムが、お子さんの字を見るときの、新しい手がかりになればうれしいです。

参考にした研究

  • Daly CJ, Kelley GT, Krauss A. Relationship between visual-motor integration and handwriting skills of children in kindergarten: a modified replication study. American Journal of Occupational Therapy. 2003;57(4):459-462.
  • Feder KP, Majnemer A. Handwriting development, competency, and intervention. Developmental Medicine & Child Neurology. 2007;49(4):312-317.

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