黒板を写すのが遅いのは「書くのが苦手」だから? つまずいているのは、目かもしれません

机の上に開いたノートと鉛筆。奥に、ぼんやりと黒板が見える教室
※画像はイメージです

「字を書くのは苦手じゃないのに、黒板を写すのだけ、とても時間がかかるんです」放課後等デイサービスで、保護者の方や学校の先生から、よく聞く相談です。書き写しが遅いと、「書くのが苦手なのかな」「やる気がないのかな」と思われがちです。けれども、書き写しは「書く」だけの作業ではありません。このコラムでは、黒板を写すときに目と頭の中で何が起きているのかを一つずつ分けて、つまずきやすい所と、周りの大人にできる工夫をご紹介します。

書き写しは、目と頭の「往復作業」

黒板の文字をノートに写すとき、私たちは次のようなことを、何度もくり返しています。

黒板の今の場所を見つける、ひとまとまり読んで覚える、手元へ目を移す、ノートの書く場所を見つける、覚えたものを書く、黒板に戻って続きを探す、の6つが輪になって回っている図
書き写しは、この6つの段階のくり返し
  1. 黒板の「今ここ」を見つける:どこまで写したかを思い出し、黒板の上でその場所を探します
  2. ひとまとまり読んで、覚える:いくつかの文字や言葉を読んで、頭の中に置いておきます
  3. 手元へ目を移す:遠くの黒板から、近くのノートへ、目のピントを切りかえます
  4. ノートの書く場所を見つける:どの行の、どこから書くのかを探します
  5. 覚えたものを書く:覚えておいた文字を、思い出しながら書きます
  6. 黒板に戻って、続きを探す:また黒板に目を戻し、1にもどります

この6つのどこか一つでも時間がかかると、全体がゆっくりになります。「書く」のは、6つのうちの1つにすぎません。

遠くから近くへの「ピントの切りかえ」

3の「手元へ目を移す」ときには、目の中でピントを合わせ直す働き(調節)と、両目を内側に寄せる働き(輻輳)が起きています。写している間、この切りかえを何十回もくり返すことになります。この働きについては、コラム「意外なところにも、見る力が関係している」でもご紹介しています。

子どもは、小さく区切って写している

イギリスの研究グループは、黒板に書かれた単語をノートに写すときの目の動きを、子どもと大人で比べました(Laishley ら, 2015)。大人は、単語をまるごと1つのまとまりとして覚えて写していました。一方で子どもは、長い単語になると、いくつかの部分に区切って覚えながら写していると考えられる結果でした。区切って写す分、黒板とノートを行き来する回数も増えます。

フランスの研究では、小学3年生と5年生に同じ文章を写してもらい、黒板を見上げた回数を数えました(Bosse ら, 2014)。すると、一度にたくさんの文字を見てとらえられる子ほど、1回見上げるごとに多くの文字を写せていました。この関係は、読む力の違いを差し引いても見られました。

文字を覚えている途中の子は、「1画ずつ」になることも

研究で調べられていたのは、単語や文字のまとまりでした。けれども、文字の形がまだしっかり覚えられていない子(文字の定着がゆっくりな子)では、区切りがもっと小さくなることがあります。1文字すら一度に覚えておけず、1画書くたびに黒板を見上げて写していることがあるのです。

たとえば、黒板の「学校」という言葉を写すとき、黒板を見上げる回数はこのように変わります。

写し方見上げる回数
言葉のまとまりで覚える1回
1文字ずつ覚える2回
1画ずつ覚える18回(「学」が8画、「校」が10画)

たった2文字でも、1画ずつ写すと18回の往復になります。そのたびに、黒板の上で「どこまで写したか」を探し直し、ノートの書く場所を探し直しています。黒板1面分を写すとなると、どれだけ大変な作業か、想像していただけると思います。

大人で言えば、読めない外国の文字を、黒板から写すようなものかもしれません。形の意味が分からないので、線の1本1本を見ては写し、また見ては写す、をくり返すことになります。「遅い」ように見えても、本人は精一杯がんばっていることが多いのです。

つまり、書き写しが遅いときには、次の2つが関係していることが考えられます。

  • 往復の回数が多い:1回に覚えられる量が少なく、何度も黒板を見上げる
  • 1回の往復に時間がかかる:黒板の上で続きを探す、手元の書く場所を探すのに時間がかかる

「書く手が遅い」のではなく、「書くまでの往復」に時間がかかっていることも多いのです。

どこでつまずいている? 様子から考える

お子さんの写している様子をよく見ると、どこでつまずいているのか、手がかりが見つかることがあります。

見られやすい様子つまずいていそうな所関係する力
どこまで写したか分からなくなる。同じ所を2回写す、1行飛ばす1と6:黒板の「今ここ」を見つける視線をパッと移す力(跳躍性眼球運動)、探す力(視覚探索)
1文字ずつ、または1画ずつ黒板を見上げる2:ひとまとまり覚える見て覚える力(視覚的な記憶)、読む力、文字の形の定着
写しているうちに目をこする、疲れやすい3:ピントの切りかえピントを合わせる力・両目を寄せる力(調節・輻輳)
ノートの行がずれる、字がマスからはみ出す4:ノートの書く場所を見つける位置をとらえる力(空間の認知)
写した字の形がくずれる、写すと字が読みにくくなる5:覚えたものを書く目と手を一緒に使う力(目と手の協応)

いくつかの所で、少しずつつまずいていることもあります。表は、お子さんの様子を見るときの「手がかりの一つ」として使ってください。

目の動きのくわしい説明は、コラム「追従性眼球運動と跳躍性眼球運動とは?」をご覧ください。

目のほかにも、理由はいろいろ

書き写しには、目のほかにも、たくさんの力が使われています。

  • 読む力:文字を音にして読めると、言葉のまとまりで覚えやすくなります
  • 書く手の動き:鉛筆の持ち方や、手先の動かし方
  • 姿勢:体が傾いていたり、机と椅子の高さが合っていなかったりすると、黒板とノートの行き来がしにくくなります
  • 注意:周りの音や動きに気をとられると、どこまで写したかを忘れやすくなります

書き写しが遅い理由は、一人ひとり違います。何でも「目のせい」にせず、いろいろな面からお子さんの様子を見てあげてください。

家でできる練習

近くから始めて、少しずつ遠くへ

いきなり黒板のような遠くから写すのは、難しい練習です。まずは、机の上に置いた本やカードから、ノートに写すところから始めます。慣れてきたら、見本を机の向こう側に立てる、壁に貼る、と少しずつ遠くにしていきます。

見て、かくして、書く

写す量を少しずつ増やしていく、覚える練習です。

見本を見る、見本をかくす、覚えて書く、見本と比べる、の4つの手順を並べた図
見て、かくして、書く(数字の例)
  1. 見本(数字や文字、短い言葉)を、数秒だけ見せます
  2. 紙やカードで見本をかくします
  3. 覚えたものを書きます
  4. 見本と比べて、答え合わせをします

はじめは2〜3文字くらいから始めます。文字の形を覚えている途中の子は、よく知っている1文字や、画数の少ない文字から始めると取り組みやすくなります。できるようになったら、文字の数を1つずつ増やしたり、見せる時間を少し短くしたりします。文字がまだ読めない子は、色のシールや簡単な形でも同じように取り組めます。

「今ここ」を見失わない工夫

  • 写す見本の、今写している所を指で押さえる
  • 写し終えた所に、鉛筆で小さく印を付ける
  • 見本の行と、ノートの行に、同じ色の印を付けておく

はじめは大人が手伝い、慣れてきたら自分でできるようにしていきます。

学校で相談できる工夫

学校での書き写しが大変そうなときは、担任の先生に相談してみるのもひとつの方法です。たとえば、次のような工夫があります。

  • 席を前の方にする:黒板が見やすくなり、ピントの切りかえも少し楽になります
  • 黒板の内容をプリントでもらう、写真に撮る:手元で見ながら写せるようになります
  • 写す量を減らす:大事な所だけを写すようにします
  • 写す時間を長めにとる:あせらずに写せるようにします

どの工夫が合うかは、お子さんによって違います。家での様子を先生に伝えて、一緒に考えてもらえるとよいと思います。

つながるプリント

書き写しで使う力に近い力をねらった、MIRU LAB KIDS のプリントです。

プリントは、書き写しそのものの練習ではありません。書き写しに使う力の一つひとつを、遊びのように取り組めるものとして使ってください。1日の量や続け方については、コラム「毎日やったほうがいい? 1日どれくらい?」をご覧ください。

おわりに

黒板を写すことは、大人にとっては何でもない作業かもしれません。けれども子どもにとっては、目と頭と手をフルに使う、とても大変な作業です。

「遅い」の裏には、お子さんなりのがんばりと、どこかでのつまずきが隠れていることがあります。どこでつまずいているのかが分かると、声のかけ方や、手伝い方も変わってきます。このコラムが、お子さんの「写す」を見直すきっかけになればうれしいです。

参考にした研究

  • Laishley AE, Liversedge SP, Kirkby JA. Lexical processing in children and adults during word copying. Journal of Cognitive Psychology. 2015;27(5):578-593.
  • Bosse ML, Kandel S, Prado C, Valdois S. Does visual attention span relate to eye movements during reading and copying? International Journal of Behavioral Development. 2014;38(1):81-85.

ほかのコラム