見る力(視覚認知)とは
「見る力」と聞くと、多くの方は視力を思い浮かべるかもしれません。けれども、ものを「見る」ときには、視力のほかにもたくさんの力が働いています。このコラムでは、見る力とはどんな力なのかを、できるだけ身近な言葉でご紹介します。
「視力」と「見る力」は別のもの
視力は、「どれだけ細かいものまで、はっきり見えるか」を表すものです。健康診断で、輪の切れ目の向きを答える検査がありますね。あれで測っているのが視力です。
一方で、私たちがふだん何かを見るときには、もっと多くのことをしています。見たいものに目を向ける。動くものを目で追う。見えたものが何なのか、どこにあるのかを理解する。そして、見たものに合わせて手や体を動かす。
カメラにたとえると、視力は「レンズの性能」です。見る力は、「カメラを向ける・ピントを合わせる・写ったものを読み取る・それをもとに動く」までを含めた、全体の働きです。レンズがどんなに良くても、向ける先がずれていたり、写ったものをうまく読み取れなかったりすると、思うようには使えません。
そのため、「視力はいいのに、見ることが苦手」ということが起こります。この「見る力」のことを、専門の言葉では「視覚認知」と呼ぶこともあります。
見る力の中身
見る力は、いくつかの力が組み合わさってできています。ここでは、代表的な6つをご紹介します。
1. 目を動かす力(眼球運動)
動くものを目でなめらかに追う力や、見たいところへ視線をパッと移す力です。文字を読むとき、私たちの目は行に沿って動き、行の終わりで次の行の頭へ移っています。
2. 両目で見る力(両眼視)
右目と左目は、少しずつ違う角度からものを見ています。その2つの見え方を1つにまとめることで、距離や奥行きが分かります。近くを見るときに両目を内側に寄せる動き(寄り目)も、この力の一部です。
3. 形をとらえる力(形の見分け)
形の特徴をつかみ、似たものと見比べる力です。「ね」と「れ」、「b」と「d」のように、少しだけ違うものを見分けるときに使います。
4. 位置や向きをとらえる力(空間の認知)
ものがどこにあるのか、どちらを向いているのか、ほかのものとどんな位置関係にあるのかをとらえる力です。上下・左右・前後といった感覚も、ここに含まれます。
5. 見て覚える力(視覚的な記憶)
見たものを、少しのあいだ頭の中に残しておく力です。黒板の文字をノートに写すときは、黒板を見て覚え、手元に目を移してから書いています。
6. 目と手を一緒に使う力(目と手の協応)
見たものに合わせて、手を思いどおりに動かす力です。線をなぞる、はさみで切る、ボールを受け取る、といった動作で使われます。
これらの力は、ばらばらに働くのではなく、いつも組み合わさって働いています。たとえば迷路を解くときは、道を目で追い(1)、分かれ道の形や向きをとらえ(3・4)、目で見ながら鉛筆を動かしています(6)。
読む・書くとのつながり
見る力は、勉強の場面でもたくさん使われています。たとえば、次のような様子の裏で、見る力が関係していることがあります。
- 音読で、行を飛ばしたり、同じ行をもう一度読んだりする
- 似た形の文字を、よく読み間違える
- マス目や行から字がはみ出す、字の形が整いにくい
- 黒板を写すのに、とても時間がかかる
もちろん、こうした様子の理由は一つではありません。集中のしやすさや、言葉の力、手先の動きなど、ほかの理由が関係していることもあります。大切なのは、「本人の努力が足りない」と決めつける前に、「見ることが負担になっていないかな?」という視点を一つ持っておくことです。
なお、見えにくさそのもの(視力や目の病気)が気になるときは、まず眼科で相談してください。
見る力は、伸ばしていける
見る力は、生まれつき決まったものではなく、毎日の経験の中で育っていく力だと考えられています。ただ、プリントだけで伸ばそうとするのは難しい、というのが、理学療法士として子どもと関わってきた私の考えです。
見る力は、体を動かすことと深く結びついています。ボールを追いかける、ブランコに乗る、ジャングルジムを登る、積み木を積む、絵を描く、外の景色を眺める。こうした遊びや運動、さまざまな経験の一つひとつが、見る力を使い、育てる機会になります。
プリントは、そのうちの一つの道具です。机の上で、落ち着いて、少しずつ難しさを変えながら取り組めるのが良いところです。ほかの教材や遊び、運動と組み合わせながら、上手に使っていただけたらと思います。
MIRU LAB KIDS のプリントとのつながり
MIRU LAB KIDS では、課題ごとに「ねらい」を書いています。たとえば、次のような力をねらっています。
- かたちさがし:形の特徴をとらえて見比べる力(形の見分け)、紙全体をもれなく目で探していく力(視覚探索)
- シンプルめいろ・すうじめいろ:道を目で追い、先まで見通す力(追視・見通し)、目で見ながら線を引く力(目と手の協応)
お子さんの様子に合わせて、ねらいを手がかりに課題を選んでみてください。
おわりに
見る力は、目に見えにくい力です。だからこそ、「見ること」がうまくいっていないと、ほかの理由で困っているように見えてしまうことがあります。
このコラムが、お子さんの様子を少し違う角度から眺めてみる、きっかけになればうれしいです。