字は読めるのに、書けないのはなぜ? 「書く」を4つに分けて、どこでつまずいているかを見る

机の上のノートに、子どもが鉛筆でひらがなを書いている手元
※画像はイメージです

「ひらがなは全部読めるのに、書こうとすると出てこないんです」放課後等デイサービスで、保護者の方からよく聞く相談です。読めるのだから、書けるはず。そう思うと、不思議に感じるかもしれません。けれども、読むことと書くことは、頭の中ではかなり違う作業です。このコラムでは、「書く」をいくつかの段階に分けて、どこでつまずいているのかを見る方法と、家でできる工夫をご紹介します。

「読める」と「書ける」は、使う力が違う

大人にも、読めるのに書けない漢字がありますよね。「薔薇(ばら)」「憂鬱(ゆううつ)」「醤油(しょうゆ)」。見ればすぐに読めるのに、何も見ずに書こうとすると、手が止まる人が多いと思います。

子どもがひらがなで困っているのも、これと同じことが起きているのかもしれません。

読むときは、目の前に文字があります。形の全部を細かく覚えていなくても、「ここが丸くなっている」「ここが飛び出している」といった、ほかの字との違いが分かれば当てられます。「ぬ」と「め」なら、最後のくるっとした丸があるかどうかで見分けられます。

書くときは、目の前に文字がありません。形の全部を、細かいところまで頭の中で思い出して、正しい順番で、手を動かして紙の上に出す必要があります。

読むときは「文字を見る→違いに気づく→音が分かる」、書くときは「音を聞く→形を全部思い出す→書き順どおりに手を動かす→書いた字を見て確かめる」と、2列に並べて比べた図
読むときと書くときに、頭の中でしていること

つまり、「読める」は「この形を知っている」こと。「書ける」は「この形を、何も見ずに思い出して、手で出せる」ことです。同じ文字でも、書くほうが、使う力が多いのです。

4つの書き方を比べると、つまずきが見えてくる

「書けない」といっても、どこでつまずいているかは、お子さんによって違います。次の4つの書き方を比べると、手がかりが見えてきます。

1 見本をすぐ横に置いて写す、2 見たあと見本をかくして書く、3 見本なしで音だけ聞いて書く、4 時間や手・姿勢のようすを見る、の4つを並べた図
4つの書き方で、使う力が少しずつ違う
書き方主に使う力ここでつまずくときに考えられること
① 見本を見て写す形を見て、手で同じように出す形をとらえる、手を思ったとおりに動かす
② 見本を見たあと、かくして書く形を覚えておく見た形を、頭の中にとどめておく
③ 言われた音を書く音から形を思い出す音と文字を結びつける、形を思い出す
④ 書けるけれど、遅い・疲れる手と体を動かし続ける指先の動き、姿勢、鉛筆の持ち方

① 見本を見て写すのときは、見本を書く紙のすぐ横に置きます。見本が離れていると、目を動かしているあいだ、形を覚えておかなければなりません。そうなると②の「覚えておく力」も混ざって、どちらでつまずいているのかが分かりにくくなります。見本が遠くにあるときの大変さは、コラム「黒板を写すのが遅いのは「書くのが苦手」だから?」でくわしくご紹介しています。

①はできるのに②で止まるなら、形はとらえられていて、覚えておくところでつまずいているのかもしれません。②はできるのに③で止まるなら、形は覚えられても、音から形を呼び出すところが難しいのかもしれません。①から③まではできるのに、とても時間がかかる、すぐ疲れる、という場合は、④の手や体のほうから考えてみます。字がマスからはみ出す、手首や腕で書いている、という様子があれば、コラム「字がマスからはみ出す子」も参考になると思います。

家で試してみる

同じ文字で4つを順番にやってみると、違いが分かりやすくなります。

  1. お子さんがよく読める文字を、5つほど選びます(例:「あ」「さ」「ぬ」「ね」「も」)
  2. ①:見本をすぐ横に置いて、写してもらいます
  3. ②:1文字ずつ、見本を数秒見せてから紙でかくし、書いてもらいます
  4. ③:見本は見せずに、「『さ』を書いてね」と音だけで伝えます
  5. ④:全体を通して、かかった時間や、途中で手を振る・姿勢がくずれるなどの様子を見ておきます

結果は、こんなふうに書いておくと、あとで見比べられます(記入例)。

文字① 写す② かくして③ 音から気づいたこと
あ○○○
さ○○△「ち」と迷った
ぬ○△×丸が「め」の形に
ね○△×
も○○△向きが反対に

○=すぐ書けた、△=迷った・形が少し違った、×=出てこなかった、くらいの大まかな印で十分です。この例では、①はすべてできて、②から少しずつ迷いが出て、③で止まることが多くなっています。形はとらえられているので、「覚えておく」「音から思い出す」のほうを手伝うとよさそうだ、と考えられます。

これは「できる・できない」を決めるためのものではありません。どこから手伝うとよいかを考える、手がかりの一つとして使ってください。一度で決めず、日をあけて何度か見てみると、その日の調子による違いも分かります。

鏡文字は、脳のもともとの仕組みから

「さ」を「ち」のように、左右が反対の字を書くことがあります。これを鏡文字といい、文字を覚え始めたころの子どもによく見られます。

「さ」と「ち」を左右に並べ、左右を反対にするとほぼ同じ形になることを示した図
左右を反対にすると、似た形になる字

じつは、私たちの脳には、左右が反対のものを「同じもの」と見る仕組みがあります。右を向いたネコも、左を向いたネコも、同じネコです。身の回りのものを見分けるには、とても便利な仕組みです。

ところが文字は、左右の向きが違うと、別の字になってしまいます。文字を読むときに働く脳の場所を調べた研究では、大人の脳は、絵については左右反対でも「同じ」と反応していた一方で、文字については「同じ」とは反応していませんでした。読み書きを身につけるあいだに、文字だけは、この仕組みを働かせないように変わっていくと考えられています。

鏡文字は、その途中の姿ともいえます。左右の向きは、書いて、見比べて、という経験を重ねる中で、少しずつそろっていきます。

日本語ならではの難しさ

日本の子どもは、ひらがな・カタカナ・漢字と、何種類もの文字を覚えます。日本の小学2年生から6年生、約500人の読み書きを調べた研究では、ひらがなもカタカナも、読むことより書くことにつまずいている子のほうが多くいました。「読めるのに書けない」は、日本語ではめずらしくないことだといえます。

ひらがなの中でも、次のようなものは、つまずきやすいところです。

  • 小さい「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」(「きって」「きゃく」など)
  • のばす音(「おかあさん」「おとうさん」の「あ」「う」)
  • 「は」「へ」「を」を、「わ」「え」「お」と読むとき

これらは形だけでなく、「音をいくつに区切るか」「どの字で書くか」の決まりも覚える必要があります。③の音から書くところで止まりやすいのは、そのためです。

漢字は、意味が手がかりになることも

ひらがなやカタカナは、一つひとつの字に意味がありません。「あ」という形と「あ」という音を、そのまま結びつけて覚える必要があります。

漢字は、一つひとつの字が意味を持っています。「木」は木の形から、「休」は人が木のそばで休む様子から、というように、形と意味がつながっています。現場では、ひらがなやカタカナを覚えるのに苦労していた子が、漢字は意味を手がかりにして、むしろすんなり覚えていく姿を見ることもあります。

漢字を部品に分けて、言葉にして覚える方法もあります。たとえば「親」なら、「立つ・木・見る」と唱えながら覚えます。漢字を書くのが苦手だった8歳の子どもで、書き写して覚える方法と比べた報告では、言葉にして覚える方法のほうがよく書けるようになり、時間がたっても忘れにくかった、とされています。一人の子どもでの報告ですが、見た形を覚えておくのは苦手でも、聞いた言葉は覚えやすい子には、試してみたい方法です。

形は、手でも覚えている

漢字を思い出そうとするとき、指で空中や机の上に字を書いてみたことはありませんか。これは「空書(くうしょ)」と呼ばれ、日本人によく見られるしぐさです。漢字の部品を組み合わせて字を答える実験では、参加した105人のほぼ全員に空書が見られました。机の上など、指で書く面があるときの空書には、正しく答えやすくする効果がありました。その後の研究でも、指を動かすことが、字の形を思い出す助けになると報告されています。最初にあげた「薔薇」も、全部は思い出せなくても、指を動かしてみると「上に草かんむりがあったな」くらいまでは出てくるかもしれません。

文字の形は、目で見るだけでなく、手の動きでも覚えています。

幼い子どもに、文字を手で書いて覚えるグループと、キーボードで打って覚えるグループに分けて練習してもらった研究があります。その結果、年齢が上の子どもたちでは、手で書いて覚えたほうが、あとで文字を見分けるのが得意でした。手を動かして形を出すことが、形の覚え方そのものを助けていると考えられています。

そこで、目だけでなく、さわる・動かす感覚も使って覚える方法があります。

  • 紙の下にサンドペーパー(紙やすり)を敷いて、その上から書く:鉛筆の先にほどよい抵抗がかかり、ざらざらした手ごたえが鉛筆を通して指や手に返ってきます。自分が手をどう動かしているかを感じやすくなります
  • 手のひらや背中に、指で字を書いて当てっこする:さわられる感覚だけで形を思い浮かべます。書く側と当てる側を交代すると、遊びになります
  • 文字の形を、指でなぞる:浮き出た文字や、太く書いた文字を、目を閉じて指でたどります

日本の小学1年生約130人を調べた研究では、紙の下に紙やすりを敷いたほうが、線を思ったとおりに引く課題の成績がよくなりました。もともと線を引くのが苦手だった子ほど、その違いがはっきりしていました。この研究で見ていたのは「線をきれいに引けるか」で、字の形を覚えられるかまでは調べていません。④の手や体のほうでつまずいていそうなとき(線がふらつく、筆圧が弱い・強すぎるなど)に、まず試しやすい工夫です。

また、文字の形を、目で見るだけでなく指でなぞって確かめる練習をした幼稚園の子どもたちは、文字と音を結びつける力がより伸びた、という研究もあります。

つながるプリント

文字を書くときに使う力に近い力をねらった、MIRU LAB KIDS のプリントです。

プリントは、文字を書く練習そのものではありません。書くことに使う力の一つひとつを、遊びのように取り組めるものとして使ってください。取り組んだ様子は、記録用紙に残しておくと、変化が見えやすくなります。

おわりに

「読める」から「書ける」までのあいだには、いくつもの段階があります。書くことは、読むことよりたくさんの力を使う、大変な作業です。

4つの書き方を比べてみると、お子さんがどこまではできていて、どこで止まっているのかが見えてきます。できているところから一歩ずつ進めていけるように、このコラムが手がかりになればうれしいです。

参考にした研究

  • Dehaene S, Nakamura K, Jobert A, Kuroki C, Ogawa S, Cohen L. Why do children make mirror errors in reading? Neural correlates of mirror invariance in the visual word form area. NeuroImage. 2010;49(2):1837-1848.
  • Uno A, Wydell TN, Haruhara N, Kaneko M, Shinya N. Relationship between reading/writing skills and cognitive abilities among Japanese primary-school children: normal readers versus poor readers (dyslexics). Reading and Writing. 2009;22(7):755-789.
  • 藤吉昭江, 宇野彰, 川崎聡大, 田口智子, 春原則子, 福島邦博. 漢字書字困難児における方法別の書字訓練効果:単語属性条件を統制した単語群を用いた検討. 音声言語医学. 2010;51(1):12-18.
  • 佐々木正人, 渡辺章. 「空書」行動の出現と機能:表象の運動感覚的な成分について. 教育心理学研究. 1983;31(4):273-282.
  • Itaguchi Y, Yamada C, Fukuzawa K. Writing in the air: contributions of finger movement to cognitive processing. PLOS ONE. 2015;10(6):e0128419.
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  • 新庄真帆, 加藤寿宏, 松島佳苗. 学童期の書字動作に感覚フィードバックが及ぼす影響. LD研究. 2019;28(2):241-248.
  • Bara F, Gentaz E, Colé P, Sprenger-Charolles L. The visuo-haptic and haptic exploration of letters increases the kindergarten-children's understanding of the alphabetic principle. Cognitive Development. 2004;19(3):433-449.

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